README
前章 Chapter 2: 謎のアバター (Sandboxed Sanctuary)
彼が謎の告白をして、連絡が取れなくなってから数週間が過ぎた。
その間も私は、彼から送られてきた私のアバターの画面キャプチャを見ながら、考察を重ねていた。
彼は私のデータを勝手に取ってAIに学習させていたと告白した。何のデータを?WhatsAppのOpenClawのエラーメッセージから推察するに、私のテキストデータを学習させていたのは確かだろう。しかし、テキストデータだけであのアバターを作成できるとは思えない。無機質な3Dモデル化されているとはいえ、顔のパーツは私を元に作成されているようだ。しかし、彼とお茶をしている間に写真を撮られた覚えはない。強いていえばLinkedInのプロフィール画像なら入手できると思うが、それだけで3Dモデル化できるのだろうか?3Dモデルをわざわざ作成したということは、単なる静止画でなく、動くはずだ。私のデータを学習し、私のように動くのだろうか?
そこまで想像して、少し背筋が寒くなった。彼は何故そんなものを作ったのだろう?彼とは知り合ってから1年ほど経つが、仕事の忙しい合間をぬって、たまにカフェで会って、お喋りをするくらいの関係だ。正直にいって、私は彼に好意があったが、彼は私と恋愛関係に発展したいわけではなさそうだった。少しでも性的な事柄……例えば、カフェの近くにあるランジェリーショップの前を二人で通り過ぎるだけでも、真っ赤になってフリーズしてしまう。
多分、性的なことが苦手なのだろう。話題も仕事や趣味のことが中心で、恋愛の話をしたことはない。私のことは単に友達と思っているのかもしれない。仕事関係の人ということで、遠慮もあったのか、「彼にその気がないのであれば、無理に進展させようとせず、このままの関係でいよう」そう思っていた矢先の衝撃のアバター制作の告白だった。
わざわざ私のアバターを作成したということは、彼は意外と私に興味があったのだろうか。それならそう言ってくれたらいいのに……。一体どういうつもりなのだ。勝手に自分のデータが知らない間に学習され、アバターを作られるのは、怖いといえば怖いのだが、同時にどういう出来栄えなのだろうかという好奇心も湧いてくる。彼はあのアバターに何をさせているのか。
どれほど部屋の中でぐるぐると思考を巡らせようと、彼からは一向に返信がない。お風呂に入って、リセットしようと立ち上がると、棚の上の腕時計やアクセサリーをごちゃっと置いている銀色のトレイが目に入った。アクセサリーの中に混ざっていたのは黒いチタンのリング──彼に自分は新しいのを買ってもう使わないからあげると言われて「お古」でもらった、スマートリングだった──。
次章 Chapter 4: スマートリング (Biometric Telemetry)

